赤坂インターシティコンファレンス
開業までの道のり
Date
2024.09.30
facility
赤坂インターシティコンファレンス
東京メトロ銀座線・南北線「溜池山王」駅直結、六本木通りに面した1.6haの敷地に延床面積約17万8,000㎡に及ぶ大規模再開発プロジェクト『赤坂インターシティ AIR』が、2017年9月29日にグランドオープンした。ハイスペックなオフィスを中心に、商業、医療、住宅などから構成される、地上38階建て、高さ205mの大規模複合ビル。
その3階・4階に、インフィールドが運営を請け負う、国際水準のコンファレンス「赤坂インターシティコンファレンス(以下AICC)」がある。本インタビューでは、その開発に携わった2人に当施設の計画段階から開業までの裏側とコンファレンス施設のあり方について聞いた。
※施設開業後のインタビューに関してはこちらの記事をご覧ください。
PROFILE
日鉄興和不動産株式会社
ビル事業本部 都市開発部
グループリーダー
髙島 一朗 様
2007年から都市開発部で赤坂1丁目再開発事業を担当。
株式会社インフィールド
執行役員
中村 仁
インフィールドが企画・運営する全物件の立上げを担当。本プロジェクトも企画段階から責任者として参画。
CONTENTS
赤坂インターシティAIRと
コンファレンスセンターの開発背景
なぜ赤坂インターシティAIRを作ることになったのでしょうか?
日鉄興和 髙島様:
以下、日鉄興和 髙島
元々、このエリアには当社の大きな古いビルがいくつかあり、周辺地権者の方々と共同でビルの建て替えを検討していました。準備組合を作り上げる段階で、虎ノ門へ続く並木道を作る構想があったのですが、その中でそれぞれを個別に開発していくよりも、全てを一貫して行った方が良いのではないか、ということでいくつかの計画が合体した大きなプロジェクトとなりました。
やがてそのプロジェクトは、2005年に「赤坂インターシティ」が竣工しましたが、これを機に地域を大きく広げて、環境を整備して大きなビルを立てようという都市計画となっていきました。それが、この赤坂1丁目再開発事業です。
霞ヶ関の官庁街に近く、赤坂の繁華街や六本木に通じる結節点のような場所であり、街づくりという視点でコンファレンス施設を作ること自体は自然なことでした。準備組合の段階で建物の配置やビルの階層などを考えるため、コンファレンス施設の概要に関しては、都市計画決定を受けるタイミングでおおよそ決まっていました。
INFIELD 中村:
商業施設やホテルという選択肢もあったと思うのですが、どうしてコンファレンス施設だったのでしょうか?
日鉄興和 髙島:
商業施設やホテルという案もありましたが、計画を立てている当時、ホテル業界には今ほどインバウンド需要はありませんでした。観光地ということでもないので、大規模な商業施設を作ることにはいくつか懸念点がありました。
一方で、この場所は政治的にもビジネス的にも日本の中心地で、国会議事堂や各省庁、日本の有名企業のオフィスがすぐ近くにあります。平日は人も多く、イベントスペースやコンファレンスの潜在的な需要は高いのではと推測し、今までにないクリエイティブな会議施設を作るには絶好のロケーションだと考えました。
赤坂インターシティコンファレンスとは
どのような施設か
この赤坂という土地にあるコンファレンス施設とはどのようなもので、どうあるべきだと考えられていたのでしょうか?
日鉄興和 髙島:
コンファレンス施設がどうあるべきかについては、少し奥が深い話になるので全てを語ることは難しいのですが、私たちはビジネスコンファレンスのための空間を作りたいと考えていました。
会議はホテルでも貸会議室のようなところでも行えますし、ビジネスセミナーはさまざまな場所で行われていますが、それに特化した会場がどのくらいあるのかと考えると、私は少ないと思います。少ないというのはつまり、空いてるオフィスフロアを使ってただ机と椅子を揃えただけの空間はたくさんありますが、イベントのためのふさわしい設備と集中できる環境を整えた施設という観点で見ると決して多くはない、という意味です。
私はイベントの目的に応じて適した会場があると考えています。ゲストの方を呼び込みさまざまな方とコミュニケーションをとるビジネスイベントを行うのであれば、やはり会場にはこだわるべきというのが私の考えです。
このようにエントランスゲートを通り、コミュニケーションルームがあり、インテリアを調えた、休憩時間にもKIOSK(キオスク)が利用できるビジネスイベントのための環境が必要なのではないか、そうでないとイベントを成功に導くことは出来ないのではないかと考えています。
AICCとインフィールドの出会い
日鉄興和不動産様とインフィールドがどのようなきっかけで出会い、どのようにお話が進んでいったのかお聞かせいただけますか?
INFIELD 中村:
我々が運営している御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターに、髙島様を含む数名の方が見学にいらっしゃったことがありました。その時に初めてお話をさせてただき、赤坂でこのような施設を作ろうと考えているということを伺ったのですが、それまで我々は両国や御茶ノ水などを中心に事業を展開してきたので、商圏や価格帯が異なる赤坂の施設をまさか運営まで行わせていただくことになるとは思っていませんでした。
さまざまな会社様がある中でインフィールドとプロジェクトを進めていこうと思われたのはなぜでしょうか?
日鉄興和 髙島:
さまざまな会場を見に行き、各会場で多くの方々とお話をしましたが、委託運営になるとどうしても現場スタッフの元気が感じられないということが多々ありました。それはやはり主体性の問題だと私は考えています。請け負った運営を顧客の求める水準できちんとこなせている会社というのは本当に少なく、インフィールドが唯一無二と言っていいくらいです。
当時、なぜインフィールドにはそれが出来ているのかが非常に気になっていました。ある時、インフィールドの若いマネージャークラスの方々にお会いする機会があったのですが、その方達がとてもいい表情をされていて、確信を持つきっかけになりました。
多くの言葉を交わしたわけではありませんが、若いスタッフがいい顔をしているのはとても大切なことだと思います。インフィールドは実績や評判だけでなく、優秀な人材も持たれているということが分かりました。私たちの考えを共有し、共に赤坂でチャレンジをする相手としてふさわしいと考えました。
そのようなお話をいただいた中で、実際にお受けすることになった背景をお聞かせいただけますでしょうか?
INFIELD 中村:
当時から、当社には「会場を増やすのは、そこを運営する“人”がきちんと育ってから」という価値観があり、運営会場を増やしていくことに慎重でした。AICCの業務内容は英語対応や宿泊手配など、非常にハードルの高いものが多く、我々には難易度が高いのではないかという意見も多くありました。
しかし、この施設を作ろうとしている方々の強い想いや、知識の深さに感銘を受け、私たちの挑戦したいという気持ちも日に日に強くなっていきました。そんな想いが伝わったのか、慎重だった当時の代表も前向きになり、晴れてお話を進めることになりました。
少し話は逸れますが、最初のお話の時点では我々はワンオーナーでどこにも属さない会社でしたが、途中で東急コミュニティの子会社となりました。その際には、別のデベロッパーの子会社なのにこのまま我々に委託して良いのかといったお話にはならなかったのですか?
日鉄興和 髙島:
確かにそれはどうなのかといった話は出ました。しかし東急コミュニティさんは懐の深い会社です。さまざまな事業に取り組まれる。こうした事業をされるのも必然的な流れです。しっかり運営できるなら問題ないのではないかという結論になりました。
結果的に経営という土台がしっかりして、会社としても一段階レベルアップしたのではないでしょうか。お話を受けてくださった当時の代表も大英断をされたと思いますし、新しい社長も理解のある素晴らしい方だと思います。
開業までの道のり
実際にプロジェクトを進めていく中で、最も困難だった課題はなんでしょうか?
日鉄興和 髙島:
課題はたくさんありましたが、課題がない方がおかしいのでそのような意味では順風満帆だったと言えます。AICCは面積がとても広いので当然、あらゆる面で選択肢も増えてきます。企画段階と比べると、場所と大きさはあまり変わっていませんが、レイアウトはかなり見直されています。
INFIELD 中村:
髙島様のお話にもありましたが、当初企画段階のフロアプランがもともとあり、当社は運営会社として途中から参画させていただきました。そのタイミングですと、運営目線での設計変更や仕様変更は、建築的なリミットが差し迫ったタイミングでしたのでなかなか難しい部分が多かったです。それでも、開業後のお客様の使い勝手上、どうしても変更・調整いただいた部分が主だったもので3点あります。
1点目は、来場者導線の向上のため、当施設のメインホールであるthe AIRの向きを180°回転するご提案をさせていただきました。設計サイドからは「このタイミングでの変更は厳しい!」と猛反対を受けたのですが、意匠面でシンメトリーを保つためにはどうするか、大型稼働壁の収まりはどうするかなど、議論とアイデアを尽くし、うまくまとめきることができました。
2点目は、プロジェクターの映像を投影するスクリーンの種類変更についてです。当施設では当初、先進的でデザイン性も高いガラススクリーンが全ての部屋に計画されていました。ただそうすると、反射率やガラスの継ぎ目部分の影響で、視認性が落ちてしまいます。ここでも利用されるお客様目線で部屋ごとにコンセプトや利用シーンを再定義し、部屋によっては視認性の高いシルクスクリーンへの変更、またはガラスとシルクの併用などのプランをご提案し、採用いただけました。
3点目は、全部屋タブレットで映像・音響・照明等の操作が可能という仕組みの導入についてです。こちらは当初企画段階から与件として挙がっていましたが、往々にしてタブレットは操作性が低く実運用に耐えられないケースが多く発生してしまいがちです。そこで当社からは画面上の微妙なボタン配置や色設定に至るまで、今までの運営経験を活かして非常に細かくご提案させていただき、極めて完成度の高い仕組みを構築することができたと感じております。
設計段階から、本当にみなさんに愛される会場、喜ばれる会場にしたいという強い想いがありました。さまざまな場所でヒアリングを行い、どうしたらもっと使いやすくなるかを考えてご提案をさせていただきました。予算的、期間的、構造的な制約もある中で一番みんなが良いと思える形を追求し、図面に落とし込んでいきました。
特にAICCならではの魅力はどういったところでしょうか?
INFIELD 中村:
ご存知のように、まず立地が素晴らしいです。アクセス面で言うと溜池山王駅と国会議事堂駅から地下で直結していますし、羽田からも成田からもすぐ近くまでバスが出ています。
また、言語の壁を取り払おうと考え、メインホールのthe AIRには同時通訳ブースを設置、受付にもバイリンガルのスタッフが常駐しており、国際的な会議や講演にも対応できます。最大限にリフレッシュできるようにラウンジには緑を多く配置し、空間を広くとりました。くつろぎながらも、より盛んな交流が生まれるよう、椅子も多く配置しています。話し出したら言い切れないほど各施設にこだわりが詰まっています。
一番深くご検討された設備はどちらでしょうか?
INFIELD 中村:
サービス面と空間面で一番苦労したのはKIOSKです。KIOSKとは簡単に言うと「ONとOFFの切り替え」のため、休憩時に来場者の方にコーヒー・紅茶・お菓子などを提供することです。言葉でお伝えするとシンプルなのですが、KIOSKというモノには明確な答えがなく、「このコンファレンスセンターにふさわしいKIOSK」というものに対しても、関係者の中でそれぞれのイメージの違いが大きく、非常に苦労しました。
什器ひとつをとってみても、ふさわしいものを選ぶために相当気を遣いました。特にコップはマグカップか紙コップかでとても議論がありました。衛生面・コスト面・汎用性・使用性とさまざまな見方があり、決定するまでに3年あまりを費やしました。
日鉄興和 髙島:
ホテルでは、コーヒーはカップ&ソーサーで出てくるべきなのかもしれません。ホテルで紙コップを出したら怒られるかもしれませんが、ここはあくまでもコンファレンス施設なので紙コップでもいいのです。更に、カップ&ソーサーはきちんと洗われているのかという見方をされた場合、非常に管理が難しいものになります。
結論として衛生的で、汎用性も高い紙コップがベストチョイスなのではないか、といった具合に全てのサービスについて考えていきました。その時間はとても重要でこれからも大切にしなければならないと考えています。
展望、竣工について
実際にAICCが完成されての感想をお聞かせいただけますか?
INFIELD 中村:
竣工検査の際、施設に足を踏み入れて一番ビックリしたのは、「共用部の広さ」でした。今まで訪れたどんな施設よりも“広がり”が感じられて、強いインパクトがありました。空間の“広がり”が、ご利用いただくお客様の可能性やビジネスをさらに広げてくれるのではないかと、そんな期待を感じましたね。
そして同時に、この素晴らしい施設づくりをご一緒させていただけたことに誇りを感じつつも、期待に応えられる運営をしていかなれば、という身が引き締まる思いでした。
日鉄興和 髙島:
予定通り、大きなトラブルもなく円滑に進んだので良かったと思っています。ですが施設は人が入ってどう使われていくのかが重要なので、これからみんなで努力していかないと本当にいい施設にはなりません。
少し前にオールドイングリッシュな方の系統を追っているある映画を見たのですが、その中にmanner makes the man(マナーが人を作る)というとてもいい言葉が出てきました。私はこの会場も同じだと思っています。
この会場で適した仕事をすれば、立派な人間になれると考えていますし、そのような会場を作りたかったです。この会場が人を作り、会場が成功を呼び込む。竣工して、そのことが少しづつ皆に伝わり始めています。これから運営を進めていく上で理解できることもたくさんあると思いますが、この makes the man と makes the success を皆が感じることができればいいと思っています。そのような期待をお客様にもインフィールドにも持ってもらえたら嬉しいです。これからのAICCをとても楽しみにしています。