STORY4
東急不動産 INFIELD

文化財を動態保存する
ハイブリッドバンケット開発秘話

Date

2024.09.30

facility

九段会館テラス コンファレンス&バンケット

「九段会館テラス」は、登録有形文化財「旧九段会館」を一部保存・復原しながら建て替えるプロジェクトとして、2022年9月に開業した。「九段下」駅から徒歩1分、皇居外苑に隣接する立地は、ビジネスと文化が交わる九段下の新しいランドマークとなっている。

このビルの2階・3階には、インフィールドが運営を受託する「九段会館テラス コンファレンス&バンケット」が設置された。本インタビューではその開発に携わった2人に、文化財を動態保存するという企画検討の裏側や、バンケット運営の実態について聞いた。

PROFILE

東急不動産株式会社

都市事業ユニット 渋谷事業本部
渋谷開発部 事業企画グループ

グループリーダー

伊藤 悠太 様

2018年から九段会館テラスの開発を担当。

株式会社インフィールド

九段会館テラス コンファレンス&バンケット

チーフマネージャー

浅野 喬

九段会館テラス コンファレンス&バンケットの企画段階から本プロジェクトに参画。

※所属・役職はインタビュー当時のもの

九段会館テラス コンファレンス&バンケットの
開発背景

九段会館は国の登録有形文化財に指定されていますが、どのような思いで始まった再開発プロジェクトですか?

東急不動産 伊藤様:

以下、東急不動産 伊藤

九段会館再開発コンペがあったのが2017年で、その時からインフィールドと一緒にコンファレンスとバンケットを提案の中に入れていました。国からの指示としては、特に歴史的な価値が高い北側と東側、特に北側のファサードを内装も含めて必ず保存する、というものでした。東側は復元的整備を認める、つまり1度壊してもう1回作り直してもよい、というのがコンペ要件でした。

さらに国からの要望としては、ただ残すだけではなく、使いながら残していくという、いわゆる「動態保存」を今回の要件として課されていました。当社の提案では、北側と東側を全て残しながら、なるべく昔の様子を生かして、先ほどの動態保存も実現できるということで、インフィールドの提案を採用して一緒に進めてきた形です。

国の要望としては保存ですが、九段会館は東日本大震災で被災し天井崩落事故が起きています。当社としては、動態保存で使いながら残していくという意義は理解しつつも、何よりも安全面を最大限考えていかなければならない状況でした。

当然、コンペの提案書には「保存します」と書きましたが、実際に蓋を開けて現地調査をしてみるまで、どこまでできるのかは正直手探り状態でした。また、九段会館の長い歴史の中で創建時からの変更点も多く、「いつの時点の九段会館が歴史的価値があるのか?」といった認識のすり合わせも、コンペ受注後の最初のハードルでした。

安全性と保存の両方を担保する意味で、鹿島建設にも一緒に入っていただきJVを組んで、その担保ができるように工夫をしていきました。

九段会館テラス コンファレンス&バンケットはどのようなコンセプトで企画しましたか?

INFIELD 浅野:

当社のコンペ時の提案は、国有財産である九段会館の建築・意匠を最大限生かし残すバンケット部分と、東京大学の前身となる江戸幕府直轄の洋学研究教育機関「蕃所調所」が設置されていた歴史的背景・地域特性をくみ取ったアカデミックなコンファレンス、という2つの役割を持たせたコンファレンス&バンケットを作る、というコンセプトでした。

保全が求められる2つのバンケットについては、動態保存の役割を果たすために時代に合った最低限必要な照明・通信・電源設備は整備しつつも、創建時の意匠を最大限保存するために映像・音響設備は壁床天井を傷つけないように全て仮設設置の提案にしました。

主に九段下周辺企業や都内主要企業・官公庁による、シンポジウム・記念式典・芸術文化展・新商品発表会・記者会見・賀詞交歓会・入社式など幅広い用途での利用を見込み、婚礼企業やケータリング企業と提携したウェディングイベントへの対応も想定していました。

復原的整備が容認される新規コンファレンスについては、バンケット側との連続性を意識した品格ある内装デザインを採用し、アカデミックな学びの場として企業研修やビジネスセミナー、医療系学会などの誘致を想定していました。

受託と賃貸を組み合わせた
ハイブリッドな契約提案

インフィールドのコンペ提案の評価ポイントを教えてください。

東急不動産 伊藤:

ご提案のコンセプトやターゲットはとても良かったと思います。それに加えて大きな評価ポイントが2つありました。

ひとつは「動態保存をいかに実現するか」という大命題がある中で、バンケットエリアは「完全売上歩合の運営委託」という契約形態をご提案いただいたことです。当社単体としての運営は難しくて、専門の運営会社に依頼をしなければならない中で、保存というハードルがあるため演出設備の設置は限られ営業しにくいという課題がありましたが、インフィールドは再開発全体の意義や方向性に最大限寄り添った提案をしてくれました。

もうひとつは「コンファレンス部分はインフィールドが賃貸借契約をする」というリスクを取った提案をしてくれたことです。協議を進める中で、インフィールドではなかったとしたら、 運営委託と賃貸を混ぜてしまおうという形式自体がものすごく難しいんだろうなと思いました。

御社からすると賃貸の方をどんどん客付けしたいでしょうし、当社からすると受託部分をもっと売ってください、となると思いますし。その辺を喧々諤々と協議をさせていただいて、いっそ全部賃貸がいいんじゃないか、または全部運営委託がいいんじゃないか、という話を何度も何度も行ったり来たりしながら検討を重ねていきました。

当社からすると、全部賃貸にして売上を固定してしまうと、伸びしろがなくなってしまいます。一方で、全部が運営委託だと今度は投資額が増えてしまい苦しい。

このバランスを上手く取れたのが、肩肘張らずに率直な対話を重ねられたインフィールドだからこそ、というのはあるんだろうなと思います。お互い事業でやっていますので、当然利益は出さなければいけないのですが、利益だけを追求するのではなく、この案件をどうやったら上手くできるかという形で、常に前向きな対話ができて、提案いただけたというのが大きかったです。

INFIELD 浅野:

インフィールドは本来であれば運営受託がメインの会社です。ただ、受託と賃貸を組み合わせたハイブリッドなご提案は、この物件の特殊性があったからこそ、当社もリスクを取ってご提案できた部分があります。保存棟と新築棟で工事の仕方も違うから工事見積りも複雑で、さらに受託エリアと賃貸エリアがそれぞれの棟に跨って、非常に複雑でした。

契約条件の話は何十回レベルで議論して、プロジェクト収支も数十パターン作成しました。オーナーとして求める利益水準と、プロジェクト全体の実現度のバランスで、お互いに納得できる良いラインを諦めずにずっと探し続けることができたというのがよかったですね。

東急不動産 伊藤:

お互いに自分だけのリターンだけを求めると永遠に話はまとまらないんですが、インフィールドと話をしてると、「じゃあうちがこれを出すからここはこうしてよ」みたいな話を、毎回セットで上手くできていたから歩み寄れたのかもしれませんね。

INFIELD 浅野:

コロナ前の企画提案だったので当社もかなりリスクを取っていたのですが、コロナ禍でものすごく弱気になって、2020年〜2021年にかけては伊藤さんに何度も「このプロジェクト、やめてもいいですか?」って弱音を吐いた気がします(笑)。伊藤さんからすぐに「ダメです、やめられません」って毎回止められていました(笑)。

文化財の保存とバンケットとしての活用の
両立の難しさ

文化財を動態保存するというプロジェクトは、どのように進められたのでしょうか?

INFIELD 浅野:

コンペ受注後、じゃあ具体的にどうやって保存していくか?となったときに、一緒にいろいろな会場を見に行きました。動態保存をしている会場の「保存と変更のバランス」を実際に見て、「あ、ここまでいじっていいんだ」とか。会場運営の方にも、どこまで手を入れて、何を残したのかをヒアリングして。一連の視察で「ここまでやれそう」という線引きが分かってきました。

東急不動産 伊藤:

学士会館とか、名古屋の市庁舎だったり、やっぱり保存の仕方とか良し悪しってすごくあるなと感じましたね。例えば宴会場の演出で必須の照明を吊るためのバトンも、付けるべきか、付けないべきかとか。 保存ということを考えれば何もなくて、ただただ残せばいいという考えもあるかもしれないけれど、我々が課せられてるのは動態保存という、使いながら残していくというのが命題であったので、かなり悩み議論を重ねました。

やたらめったらいろいろなものを付けていくと、「何を保存したんだっけ」みたいな形になってしまうので、そのあたりの塩梅を上手く協議できたのがとてもよかったです。保存の考え方は、当然ながらここで上げた収益を修繕とか維持管理に使っていくというのが根本にありますので、ある程度は収益を上げなければいけない。ただ保存もしなきゃいけないっていう、そこのジレンマは会場の企画を深度化する中でかなりありました。

インフィールドとしては、本当はもっといろいろな設備を付けたかったと思いますが、そこは九段会館全体の再開発事業をご理解いただいて、契約条件と同様にハード面でも寄り添っていただいた部分なのかなと感じています。

INFIELD 浅野:

「バンケットホール真珠」は、演出用のムービング照明を何個付けるか、どう付けるかを相当議論しました。本当は天井に埋め込みたいけれど、埋め込むと当初の意匠と変わってしまうから、最終的に専用ボックスを作ってそれをビス打ちで止めるだけにした方が、創建時の意匠に近いよね?といった検討もしました。照明メーカーさんも巻き込んで、一緒にCGや実物模型を作ってもらい、照明の角度や見え方、設置方法を本当に細かく検証しました。

東急不動産 伊藤:

1番最初の話に戻っちゃうかもしれないけれど、やっぱりそこもインフィールドが目線合わせをしてくれて、「一緒にここをいい場所にしていこうよ」という信頼関係ができたからこそだと思います。

あとは、鹿島建設さんが事業者としてだけでなく設計・施工としても入っているんですけれども、施工担当の方がすごい情熱を注いで検討してくれたっていうのは大きいですね。この案件は保存部分が1番目玉というか、当然新築部分もあるけれど、ここをどう保存して、どう使っていくかっていうところが、1番大きな課題ではあったので、鹿島建設さんも惜しみなく、一緒に検討してくれました。

彼らも「作ったはいいけど、使われなかったら意味ないよね」という考えで、保存に対する知見にもなるし、 すごく楽しんでやってくれたっていうところもありました。プロとして、この新しく生まれ変わる九段会館がどうあるべきかをすごく追求をしてくれたっていうのはありますよね。

INFIELD 浅野:

はい、鹿島建設さんの情熱はものすごかったです。ビルのお掘り沿いに、関わった人の名前が刻まれてる石版がありますよね。 通常のオフィスビルでは作らないと思うんですが、このビルだからこそ、あのようなものを作ったのでしょうか?かなりの難工事・難プロジェクトを成し遂げた魂が宿ってる、といったイメージで。

東急不動産 伊藤:

そういうのって我々の他のビルでもあるんです。竹芝でもあるし。割と作ってはいるんですが、他社さんだとあまりやっていないかもしれないですね。ゼネコンの職人さんとかも含めて、ご家族を連れてこられたときに、「ほら、ここに名前あるでしょ」と言えるのはすごくやりがいに感じられるので、とてもいいなって思います。

オフィスとバンケットを融合させる意匠設計

歴史的な保存棟と近代的な新築棟を上手く組み合わせるために工夫されたことはありますか?

東急不動産 伊藤:

この物件は、利用者の動線計画上、どうしてもオフィスとバンケットを分けられないので、どの用途の利用者も同じ正面エントランスから入ってくる形なんです。これも一概に比較はできませんが、例えば東京会館は正面が全く違うので、バンケット側で何をやっていようがオフィス側にはあまり関係なく、割と自由な営業が可能になります。

しかし、やはりここで仮に結婚式を年間数百組開催するとなったときに、前撮りの方がいらっしゃったり、ウエディングフェアのようなイベントを頻繁にやっているっていうのを想像したときに、オフィス側の利用者と動線が交錯して、オフィスとしての価値が下がってしまうのでは?というのは不安視していました。結果、婚礼系はほぼ土日祝に開催しているので、そこまで違和感なくミックスできているのではないかと。

雰囲気的にも、正面のファサードも1階エントランスもその先の吹き抜けプラザも、九段会館の歴史を継承する意匠にこだわることができたので、オフィスとバンケットがある程度ミックスされても許容される空間が作れたのかなとは思っています。

INFIELD 浅野:

そうですね。基本的には土日祝が婚礼やウェディングフェアなので、オフィスの方とバッティングすることはほとんどなくて。同線的に一緒だから何か混乱が生じてるかというと、蓋を開けてみれば全然そんなことはありませんでした。

時々平日にウェディングフォトを階段を使って撮影したいみたいなご要望があるのですが、上手くビル側とも協議をしながら撮影していただく、という調整をしているので支障はありません。

あとファサードがすごくかっこよくて、入ってすぐのエントランスも保存の歴史が感じられて、その先の吹き抜けがまた独特の素敵な空間で、いきなりオフィスエントランスのフラッパーゲートとかではないですよね。このワンクッションの空間があったからこそ、バンケットとしても、成立しているのだろうなと感じます。この構成はすごいなと思います。

東急不動産 伊藤:

そうですね。あの中央吹き抜けは「プラザ」と呼んでいて、ビル内部なんだけど扱いとしては外部空間の延長線上という思想で、鹿島建設さんとは別の空間デザイナーに依頼して設計をしているんです。あの空間はヨーロッパでいう「ターミナル」というコンセプトを設定して、いろいろな人が一度集まってきて、出会いと別れがあって、また旅立っていく、というようなイメージでやってもらったんですが、九段会館全体の意匠や歴史とも、とてもマッチした部分でもあるのかなという気がします。

プラザと手前のエントランスは床がモザイクタイルなんですが、保存しているエントランス側がイミテーションのタイル、新築棟のプラザ側が本物の大理石を使っていて、ここは施工の関係で床材の配置を新旧で逆転させています。その辺も上手くマッチしました。

INFIELD 浅野:

とてもかっこいいですよね。あんなに素敵な空間になるとは思いませんでした。出来上がりを見て驚愕しました。結果、挙式もユニークベニュー的にあえて1階の階段エントランスで開催しているので、この保存建築や独特の意匠がすごく生かされていると思います。新郎新婦の方にもとても喜ばれているという話を聞きます。思い出に残りますよね。

初のバンケット運営、婚礼にどう対応するか?

バンケットでは婚礼案件が付き物だと思います。どのように運営面を検討していったのでしょうか?

東急不動産 伊藤:

コンペ時に、保存部分を全部まるっと婚礼会場として使いたいみたいな話はありました。年間200件は実施が見込めます、といった提案で。ただ、この再開発はオフィス主体の複合施設になる方針でしたし、専門の結婚式場ではないので、それは難しいのではないかなと感じていました。実際に、現在の結婚式も月に4件くらい、年間で50件くらいなので、結婚式場に全振りするという判断じゃなくてよかったと思っています。

一方で、コンペの中でも結婚式のイメージパースは入れていて、事業として婚礼にも対応していく方針でした。九段会館は昭和の時代、都内でも1位・2位を争う結婚式場でしたが、親子3代で同じ場所で結婚式を挙げたいというご要望もあったりします。しかし、インフィールドは直接婚礼事業はやっていないという中で、婚礼事業に強みのあるパートナーを探していました。

いろいろな巡り合わせで、5階のカフェに入居を検討してくださっていたバリューマネジメントさん(以下、バリュー)が、全国の保存物件での婚礼にすごく強い会社さんで、お料理もとてもおいしいし、サービスも高品質ということで、バンケットと連携した婚礼事業も一緒にやりましょうと、話がトントン拍子で進みました。

連携を話す中で、5階のカフェ厨房から2・3階のバンケットまで料理を持ってくるのは動線も悪く厨房も足りないということで、元々インフィールドが使うはずだった2階のパントリーをバリューさんにキッチンスペースとして明け渡していただいたりと、設計期限が差し迫る中で、このあたりもインフィールドはとても協力的・迅速に動いてくれました。

INFIELD 浅野:

バリューさんは我々の会社とも親和性があるなと勝手に感じていまして、サービスクオリティへのこだわりや価値観がすごく近い会社さんだなと思っていました。結果として今一緒にお仕事をさせていただいて、婚礼は一括でバリューさんにお任せしていますが、素晴らしいパートナーだなと感じています。

東急不動産 伊藤:

そうですよね。バリューさんにお話をいただいた時に、京都の平安神宮で結婚式やっていたり、昔ながらの居宅を結婚式会場として使っていたり、結婚式場として専用に設計されたわけではない会場でも上手く利用できます、とおっしゃっていて。エレベーターなしの階段でもいいんですとか、専用動線がなくてもいいんですとか、狭くてもいいんですとかね。

実際に京都の会場を見に行かせていただいて、これは確かに大変だねというような建物でも運営されていましたし。食事も食べさせてもらったら、本当にすごく美味しくてびっくりしたのを覚えています。

運営全般で工夫されていることはありますか?

INFIELD 浅野:

我々もインフィールドとしてバンケット会場を運営するのは初めてだったので、そもそもバンケットとは何かっていうところから始まりました。バンケットというとやはりおいしいお料理のイメージが強くあったので、そこはこだわっていきたいというところで、せっかくバリューさんも入っていただいているので、新たな価値を提供できる料理をケータリングでも実現できる会場にしたいという思いがありました。

バリューさんと協力しながら、ケータリングでも温かいお料理を提供できるようにしたり、着席のコース料理でも、 普通大体1万円以上を想像されるお客様が多いんですが、1万円以下でもご提供できるようなプランを6バリエーション揃える工夫をしたりっていうことがありましたね。

開業後、懇親会のご要望っていうのは蓋を開けてみると非常に多くて、月に20件ぐらい、ほぼ毎日懇親会のご要望があったりするので、その辺りは工夫しながら進めていったことかなと思います。

あとは保存物件のため、仮設のスクリーンとプロジェクターが一見不利に感じてしまうところもあったんですが、逆に言うと動かせるんですよね。この設備の可変性を生かして、会場の横使いという提案だけではなく、短手方向を正面にした縦使いで、会場後方からやぐらを組んで長焦点レンズに付け替えたプロジェクターを投射する、といったご提案も可能になっています。不利なところを利点に変えて提案の幅を広げ、お客様の多様な要望を叶えていく、というのは大変さがある一方で、とてもやりがいに感じています。

一般的なホテルバンケットだと、いわゆるホテル本体の方々は営業に集中されていて、映像・音響・照明は外部業者に外注するのが普通なんです。当社は映像・音響・照明の出身者がすごく多いので、内製化してより手厚いサービスができるというのもあります。

東急不動産 伊藤:

企画フェーズからインフィールドとご一緒して、開業後の運営も上手く軌道に乗せていただいて、結果インフィールドはなんでも料理してくれるんだなっていう風に感じています(笑)。会議室だけではなくてホールも元々やっていたけれど、バンケットもできるようになって、我々からすると、インフィールドが成長してある意味すごい武器がどんどん増えていくのは、とてもありがたいと思っています。一緒にここをやったからこそ、他の再開発でも上手くやれるんだろうなっていう気がしています。

きっと開業するにあたってご苦労はいっぱいあったと思いますけど、途中から「これやめてもいいですか?」って言われなくなってきましたし(笑)。

INFIELD 浅野:

確かに、コロナ禍では隙さえあればやめようとしてました(笑)。あれですよ、言わなくなったのはたぶん工事中の現地を拝見してからです。めちゃくちゃすごい物件になるぞ、すごい魂がこもっているぞって。飄々としながらも実はすごい情熱を持っている伊藤さんはもちろんですが、一緒に議論して、一緒に作っていく中で、鹿島建設さんの情熱とこだわりが半端なかったです。これは逃げちゃだめな物件だと気付かされました(笑)。

ビルテナント誘致への貢献度について

ビルテナントへの貢献度はいかがでしょうか?

東急不動産 伊藤:

主はオフィスビルなので、オフィスのテナント企業の利用っていうところもきちんと考えていきたいよねっていう流れで、先行予約や割引などの優待についても、かなり議論させていただきました。我々のうがった見方をすると、インフィールドとしても別にいい話かなという気もしていて。

テナント優遇を設定することで、テナントさんとしても自分の賃貸区画に会議室を作らなくてもよくなりますし、そもそも200〜300㎡規模のこんなに広い会議室なんて作っていたら大変ですから。そういう空間がビルに最初から付帯していて、優先して使えるような物件なんだっていうのが、テナントさんとしてはすごくメリットを感じていただけるはずなので、その辺りの提案の仕方もいろいろ相談をさせてもらいましたね。

INFIELD 浅野:

おかげさまで、全体の20~30%くらいはテナントさんにご利用いただいています。面積が小さめのクラシックオフィスもあるので、なおさら賃貸区画内に会議室を作りにくいと思いますので、優待や当社のサービス含めて、とてもご活用いただけていると感じます。20〜30%のテナント利用率は、当社の運営会場でもかなりの高水準です。実際に、テナントリーシングでも役に立ったのでしょうか?

東急不動産 伊藤:

そうですね。オフィスの面積は、一声1000坪っていうのが検討のベースになるんです。九段会館は基準オフィスフロアが約750坪で少し手狭な印象で、1枚プラス3分の1で借りてくださるパターンもあるのですが、コンファレンス&バンケットが下にあるから、賃貸区画の会議室は少なめに設計して750で上手く収まるね、みたいな企業もいらっしゃったので、オフィスと上手く補完関係になれたのかなと思います。

反省点があるとすれば、もう少し早く優遇の仕方とかをテナントさんに提案できていればなお良かったかなというのは正直思っています。テナント優待の詳細は最後の最後に決めたので。着工したらすぐテナントリーシングを始めるので、最初に決まったところなんて開業の3年ぐらい前には契約してましたから。

そこはたぶん我々も作っている間はなかなかイメージがつきづらいというか、目の前の設計変更や工事の課題に目が行きがちなんです。だからこそ、今テナントさんに使っていただいてるようなものが、どんな利用のされ方が多いのかとか、こういう要望が多いなどは逆にフィードバックしていただいて、次の案件に生かすというのはぜひやっていきたいなと思っています。

INFIELD 浅野:

なるほど、そうだったんですね。当社ももっと早い段階からご提案できればよかったです。開業の3年前というと2019年なので、そのタイミングでは部屋割りもまだ決まっていなくて、なかなか具体的にイメージしていくのは難しそうですね。

現在のご利用事例ですと、例えば今年の各企業の入社式が4月1日にありましたが、ほぼテナントさんで全部屋入社式でご利用いただいて、その後の懇親会や新人研修などで、ほぼテナントさんで全館貸し切りのような形でご利用いただきました。やはり一番多いのは会議、研修ですが、外部のお客様を招いたセミナーでもご利用いただいていますね。

ここまでテナント利用が多い要因としては、九段下駅最寄りに競合となる会場がとても少ないという立地・競合条件が大きいと思います。また、優待割引率を少し高めに設定したり、外部利用の問い合わせが減少する10日前以降だと追加割引するという利用者に配慮したプランも好評の理由かなと。あとはもちろん会議室の雰囲気や内装、当社のきめ細かいサービスなど、総合的な使い勝手にご満足いただけてるのではないかなと思います。

東急不動産 伊藤:

そうですね。バンケットばかりが注目されがちですけれど、コンファレンス部分のラウンジも、九段会館の品格や意匠との連動性を意識して、デザインをすごくこだわって作っていただけたのも良かったと思います。会議室側だけチープなのも、ビル全体でのテナントサービスという観点では物足りなく感じてしまいますので。でも、インフィールドの事業計画は大丈夫かなって少し心配になります(笑)。

INFIELD 浅野:

本当に、かなりリスクを取った投資で、大変でした。ようやく黒字になってきた感じです(笑)。

数字の評価について

開業後のインフィールドの数字の評価について教えてください。

INFIELD 浅野:

数字について、2022年開業だったので、初年度はコロナの影響もありかなり厳しかったです。3密NGと言われていた時代なので、懇親会の実施にもまだ抵抗感が残っていて。ただ、2023年度は結構持ち直しまして、2024年度の第1四半期はかなりいい。その辺の御社側のご評価って、何か聞いていたりしますか?

東急不動産 伊藤:

ごめんなさい、私は開発担当で、現在は運営担当に引き継いでしまっているので直近の数字の評価は正直聞いてはいないんです。ただ、ここの案件は70年の定借事業になっていて、国との契約の中で地代が決まっており、物価の変動に応じて地代も変動する形になっております。

事業全体の収益性を安定させるためにも、インフィールドさんの収益はある程度下支えにはなってるとは思います。

INFIELD 浅野:

テナント家賃も急に上げられないですもんね。きついですね…。

東急不動産 伊藤:

うん、だから、もっと頑張ってください(笑)。

INFIELD 浅野:

そうですよね。そうなる流れかなと思いましたが…(笑)。もっともっと頑張ります!

東急不動産 伊藤:

いろいろなサービスを加えながらも、 別に当社だけが収益を上げるのではなくて、御社もそれに応じて収益が上がるような仕組みを考えたり、九段会館テラスならではの検討をもっとできるんだろうなという気はしています。この物件もおかげさまで東京建築賞などの受賞実績があるのですが、まだまだ建築的なところなので、一般消費者とかはなかなか目に触れないとは思うのですが。

それでも、これだけ象徴的な建物なので、時間が経つにつれて目に触れる機会も増えてくるはずなので、何かいい売り方を含めてご検討いただいて、 逆にこういう使い方とか、こういうもうけ方しようよと当社に言ってくれるぐらいで全然いいんだろうなって気がしています。

一方で、行政からの評価としてはすごく良かったと思っています。行政が持っている資産でここまでやってるものはあまりないので。昔の建物を活用している行政の庁舎などもありますが、本当に使ってるだけで中はボロボロという場合も結構あります。だからこういう事例があると、ひとつ再生の仕方としてあり得るんですねという評価をいただきました。

例えば外のピンディングの打ち方ひとつとっても、ここは鹿島さんがすごいこだわりを持って、周りから見えないように筋を入れて、色も合わせて、みたいな感じでやっています。ここまで丁寧に仕上げて、昔の様相と新築の部分も九段会館のテイストを踏襲しているので、全体の雰囲気としてさまざまな関係者からすごく評価していただけているのかなと思います。

九段でもエリアマネジメントに取り組みたい

今後の九段会館テラスの課題と展望を教えてください。

東急不動産 伊藤:

おかげさまで、建物としての評価は社内でもとても良くて、 業界内でもすごく評価をされていて、ただ社内的には事業収支は厳しい。やはりこの価値を将来にわたってテナント企業にどう訴求していくかという課題が大きいです。

また、九段会館の歴史を継承していくためには、ハードだけ残すのではだめで、ソフト面についても検討をしていかなければならないと考えています。お掘ウォークや、ビル前のガーデンエリアで近隣の子どもたちを集めて花植えイベントを行うなど、地域に根付いた活動を継続してやっていきたい気持ちがあります。

オフィスは、本当にただのオフィスになってしまうともったいないなって気がするので、地元の方とテナントさんとの交流が生まれるような何かが本当はできるといいなと。当然いきなりはできないから、外部の地域の人たちとの交流をしつつ、テナントさんとの交流もしつつ、どこかでミックスしていくみたいなことが将来的にはできるといいんだろうなという気もしています。

ただ一方で、ちょっとネガティブに聞こえてしまうとあれですが、私も去年から渋谷の本部に行ってすごく思うのは、当社は渋谷エリアに強みがあるので、渋谷ではなんでもできるのですが、離れてしまうことによる九段会館の施策のやりづらさを感じています。

特にこのエリアは単体の物件しか持っていないので、じゃあここだけのためにどこまで人材と資金のリソースを振り向けられるのかというと、結構きついというのは正直思っていて、 何か上手いやり方をしないと、単発で終わっちゃうとか、すごくもったいないなって気がするので、 その辺はよくよく現場にいらっしゃる方と、どう上手く思いをひとつにしながら進めていけるかがポイントだなと。

INFIELD 浅野:

そういったビル全体の付加価値向上や、未来を見据えた施策、プチ・エリアマネジメントみたいなものを、小さくてもいいので、常駐していて会場も運営している私たちのような会社が担えるといいですよね。確かに現場にずっといますもんね。

東急不動産 伊藤:

はい、まさにインフィールドに音頭を取ってもらって、商業やコワーキングや社食のテナントの皆さまも巻き込んで、オフィステナントと地元をつなぐ何かしらの取り組みをご提案いただければなと思っています。これだけいい物件で70年間このエリアで事業をさせてもらうのに、何かを生み出さないともったいないです。

最後のやるやらないの判断は当社がすると思いますが、そもそも我々だけではそこまでは思いを馳せられていないような気がします。長期目線でビルの付加価値を向上していくために、そこに向けていろいろアイデアを出し合っていく場を作ってくれるといいんだろうなという気がします。

インフィールドの課題と今後の展望

インフィールドの課題があれば教えてください。

東急不動産 伊藤:

どうなんでしょうね。課題は当時のコロナ禍の弱腰な姿勢ぐらい(笑)。まあ、あれはコロナもあってしょうがなかったとは思いますが。ただ、先ほどもお伝えした通り、何でも料理してくれるし、「やればできるじゃん!」と思っています。

あとは、何でも忖度なく率直に言ってくれるところがとてもいい。だったらこっちはこうできるという本質的な議論がしやすいんですよね。上下関係や受発注者の関係で忖度されまくってもしょうがないですし、それでは本当に良いものは作れないと思うから。そこはとてもいい関係ができたかなという気がしています。良いものを作るためには、私に対しては忖度なんて絶対する必要ないですもん。

INFIELD 浅野:

忖度は、最初から最後まで全くしてないですね。相手が誰であれ、私たちはお客様に喜ばれる施設を実直に作って運営をするだけなので、必要なことは忖度なく提案させていただいていますね。

インフィールドを社内の他部署に紹介するとすれば、どう紹介しますか?

東急不動産 伊藤:

「なんでもやってくれるよ」って紹介しますね(笑)。インフィールドとしては、今回バンケットの企画運営という武器を新たに手に入れたっていうところもあるし。今我々の方でいろいろ仕込んでいる再開発とか、こういうホール的なものとか、いわゆる会議室みたいなところも必ず要素としてはある一定の規模以上になれば出てくるので、 そこはお願いしたいなと思っています。

ただ、与件を固めてこれでよろしくっていうよりは、汗をかいて一緒に考えてもらった方がいいんだろうなっていう気がするので、逆にそういう使い方をしてもらった方がいいのではないかなって私は思うんです。

INFIELD 浅野:

ありがとうございます。基本設計やその前の構想フェーズからお声がけいただくと、施設としても良いものになりますし、ビル全体の付加価値向上・収益性向上など、できることが多いです。ですので、早めに言ってもらった方がうれしいですね。もちろん、無理なものは無理って忖度なしに言います(笑)。

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